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心理学ワールド 80号 小特集 人狼知能と人 鳥海 不二夫(東京大学大学院工学系研究科 准教授) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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25 小特集 ヒト vs. 人工知能 なかった。  その後,演算能力の発展ととも にコンピュータのチェスをプレイ する能力は向上していった。人工 知能批判で有名なヒューバート・ ドレイファスは,「チェスには直 感が必要だからコンピュータに はチェスは打てない」と豪語し た上で,1967年にコンピュータ チェスと対戦をして敗れた。つま り,この時点でコンピュータチェ スはドレイファスよりは強かった と言える。そして,当時のチェス 世界チャンピオンであるカスパロ フにIBMが開発したチェスコン ピュータ,ディープブルーが勝利 したのは1997年である。  一方日本では「チェスはコン ピュータが勝てても将棋は勝てな い」という意見が多かった。し かしながら,実際には2010年に は清水女流王将(当時)に勝利 し,2013年には第2回将棋電王戦 でA級棋士を含んだ5名の棋士と の対戦で, 3勝1敗1引き分けとコ ンピュータが勝ち越した。その後 2015年に情報処理学会が将棋に おけるコンピュータの勝利を宣言 している。  ちなみに,将棋で人間がコン ピュータに負けてもなお「囲碁は 難しいから向こう10年は人間が 勝つ」等と言われていたが,2016 年にはGoogleが作ったアルファ 碁が世界最強レベルのイ・セドル 九段に勝利したことで,囲碁にお いてもコンピュータが人間を打ち 負かしたと言って良いだろう。  チェス,将棋,囲碁といった ゲームは,完全情報ゲームと呼ば れる種類のゲームである。すなわ ち,すべての情報が完全に公開さ れているゲームである。完全情報 ゲームの難しさを表1に示す。特 に,囲碁はその複雑さが膨大で, その大きさは宇宙にたとえられて いた。その複雑さ故にコンピュー タにはすべてを把握することが出 来ず,人間による直感が勝るなど とまことしやかに言われていた が,アルファ碁が登場してわかっ たのは,なんのことはない,人間 は囲碁の宇宙のほんの一部しか理 解しておらず,アルファ碁の方が 人間より囲碁の宇宙の探索が進ん でいたということである。このよ うなゲームの中でも最も難しいも のの一つと言われていた囲碁でコ ンピュータが人間に勝ったこと で,この種のゲームにおいて人間 がコンピュータに勝つ見込みはな くなったと言えよう。 ゲームにおける 人間 vs コンピュータの歴史  いつから人間はコンピュータ (あるいは人工知能)と戦いたい と思い始めたのだろうか。いや, この表現は正確ではないだろう。 コンピュータはそもそも人間と戦 いたいとは思わないものであり, 人間がコンピュータに戦いを挑ん だとき,その戦いに応えるコン ピュータもまた人間が作らなけれ ばいけないのだから。その意味で は,この問いは正しく言えば,「い つから人間はコンピュータに打ち 負かされたかったのだろうか」と なるのだろうか。あるいは,「い つから人間はコンピュータを使っ て他の人を打ち負かしてやりた かったのだろうか」となるのかも しれない。  世界初のコンピュータENIAC が完成したのが1946年であるが, チェスのプログラミングに関す る論文は1950年にすでに出版さ れている(Shannon, 1950)。コン ピュータが開発された直後から人 間とコンピュータの間での知恵比 べは始まったと言えよう。また, コンピュータの父とも言えるアラ ン・チューリングは紙上でアルゴ リズムを作成し,アルゴリズムに 従ってチェスをプレイしたという (Turing, 1953)。当時はまだアル ゴリズムを実装するだけの性能を 備えたコンピュータは存在してい

人狼知能と人

東京大学大学院工学系研究科 准教授

鳥海不二夫

(とりうみ ふじお) Profile─鳥海不二夫 2004年,東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修 了。博士(工学)。2012年より現職。専門は計算社会科学・情報工学。著書は『人 狼知能で学ぶAIプログラミング』(共著,マイナビ出版)など。 表 1 完全情報ゲームの難しさ (https://en.wikipedia.org/wiki/ Game_complexityより筆者が作成)

Games Tree Complexity リバーシ(オセロ) 10^58

チェス 10^123

将棋 10^226

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26 さを提供するべきであろう。では 人間を楽しませるためにはどうす れば良いのだろうか? どのよう なプレイがあれば人間は人工知能 とのプレイを楽しかったと感じる のだろうか。  「人間の信頼を得る」「人間を楽 しませる」知能を実現するために は,将棋や囲碁のように「強けれ ば良い」というゲームとは違う, 新たな人間との接し方を考慮した 知能が必要となる。ゲームにおけ る人間vs人工知能は,単に強い だけの人工知能を作るという目標 から,人間とともにゲームをする という新たなステージに入って いったと考えて良いだろう。  このような知能を実現するため には,人間の心理を理解すること が大切である。もし,心理学ワー ルドをお読みの方で,この原稿を 「信頼」し協力関係を結んでも良 いと考えた方がいれば,是非人狼 知能プロジェクトにご参加いただ き,新しい人工知能vs人間の形 を探っていっていただければと思 う。 文 献 片上大輔・他(2015)人狼知能プロ ジェクト.『人工知能』 30 , 65-73. Shannon, C.(1950)Programming a c o m p u t e r f o r p l a y i n g chess. Philosophical Magazine, 41 , 256-275.

鳥海不二夫・他(2016)『人狼知能: だます・見破る・説得する人工知 能』森北出版

T u r i n g , A . M . ( 1 9 5 3 )D i g i t a l computers applied to games. B. V. Bowden(ed.) Faster than thought: A symposium on digital computing machines . http://www. turingarchive.org/browse.php/ B/7 完全情報ゲームと不完全情報 ゲーム  人工知能の方が人間より強い, と断言されると,まだ人間が負け ていない部分があるはずだ,と言 いたくなるのが人情である。  実は,ゲームの世界には完全情 報ゲームだけではなく,不完全情 報ゲームと呼ばれるタイプのゲー ムが存在する。不完全情報ゲーム とは,情報が完全には公開されて いない種類のゲームである。  チェスなどのゲームでは,最適 手が存在し,計算時間と計算リ ソースを無限にとることが出来 れば唯一の解が決まるはずであ る。究極的に言えば,将棋で振り 駒をすればその瞬間に勝敗が決ま る。一方,不完全情報ゲームでは 情報が完全には公開されていない ため,最適手がどれかを決定づけ ることが出来ない。そのため,相 手の手を推測しながら自分の手を 決めていくという作業が必要とな り,完全情報ゲームよりも難しい ゲームとなる。  不完全情報ゲームの中で日本人 にもなじみ深いゲームの代表が, 麻雀であろう。麻雀では,相手の 手がどのようなものかわからない ため,リーチをかけられれば相手 の上がり牌を予測しながら自分の 手を進めていかなければならなく なる。このような不完全情報ゲー ムはまだコンピュータが人間を完 全に打ち負かすには至っていな い。そのため,新たに人工知能と 人間を戦わせる舞台として,不完 全情報ゲームに注目が集まってい る。 人狼知能  不完全情報ゲームの一つである 人狼ゲームを人工知能にプレイ させようという試みが,筆者ら が進めている人狼知能プロジェク トである(鳥海・他, 2016)。人 狼ゲームは,ロシアやアメリカで 遊ばれていた「村人に紛れ込んだ 人狼を探し出す」タイプのゲーム の総称である。人狼ゲームのルー ルなど詳細については片上・他 (2015)をご参照いただきたい。  人狼ゲームはよく「嘘をつく ゲームである」といわれるが,実 態はそうではない。相手を信頼す るかどうかを判断するゲームであ り,相手を信頼させるゲームでも ある。もし人間と人工知能がお互 いに嘘をつく可能性があるとなる と,自分が持つ情報がいかに正し いかを説得する必要が出てくる。 すなわち,相手の言葉に嘘がある という前提に立った時点で,たと え本当の情報を伝える場合でも, それが嘘ではないことを相手に納 得させる材料が必要になるのであ る。その意味では,人狼ゲームに おいて人工知能が人間を打ち負か す日というのは,人工知能が嘘を つくかもしれないという前提を 持った上で,なお人間が人工知能 を信頼した時であると言えよう。  では,人工知能はどうやったら 人間から信頼を勝ち取れるのだろ うか? それを明らかにするため には,なぜ人間が他の人を信頼す るのかについて明らかにする必要 があるだろう。長期的な信頼関係 は,繰返しや互恵性によって構築 されるという話がゲーム理論に よってなされることがあるが,短 期的な信頼関係はどうだろうか? 人狼ゲームにおいては高々数分の うちに誰を信頼して誰を信頼しな いかを決めていくのだが,そこに 何らかの根拠はあるのだろうか。  さらに,人狼というゲームは単 に勝ち負けを競うというよりも, ともに楽しむという要素が占める 割合が大きいゲームであるため, 人狼をプレイする人工知能はゲー ムに強いことよりもゲームに面白

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